「佃の渡し船」
佃の渡しとは言わず、渡船(とせん)と呼んでいた。
曳船が客船を引っ張るめずらしい渡し船で、
客船には屋根付きの客室と自転車を乗せるスペースがあった。
浮き台船の乗り場「渡船場(とせんば)」が隅田川の両岸に張り出していて、
2組の渡船が佃島と湊町(現・中央区湊)を1日に何往復もしていた。
昭和30年代、この渡船で中学校に通った。
東京都の営業で、なぜだか無料だった。
出航の合図は曳船の鐘(と記憶している)。遠くまでよく聞こえた。
船が出始めても、慣れた人は動いている客船に飛び乗ってしまう。
飛び乗るのができなくて泣きそうになっている小学生を、
渡船場のおじさんがひょいと抱えて乗せてくれるのも毎朝の光景。
客室に入らずに、自転車と一緒に外に立って、
川風に吹かれながら渡るのが好きだった。
他の船とすれ違った後に来る波の揺れも楽しかった。
客船を渡船場に着けるときの舵さばきは何度見てもカッコ良かった。
昭和39年8月、東京オリンピックが始まる少し前、
佃大橋が開通して、渡船はなくなった。
その最後の日、満艦飾は渡船にはあんまり似合っていなかった。
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